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  • 2013/09/17

【連載】「ブラック企業」の定義とは?

「現代ブラック企業論」

~ブラック企業はなぜ生まれ、なぜ生きながらえるのか?~

(1)<そもそも「ブラック企業」とは何か>

 ブラック企業を巡る議論が喧しい。

「労働環境が劣悪、違法行為も野放しで、社員や顧客が迷惑を被る会社」を指して、俗に「ブラック企業」という。人事を生業にする人の間では昔から知られた言葉だったが、ネットなど情報網の発達により、2008年以降くらいから多くの人に知られるようになった。

今年に入ってから、自民党が「若者の『使い捨て』が疑われる企業への対応強化」として、「重大・悪質な場合の司法処分と企業名の公表」などを含めた措置を提言すると公表した。今夏の参院選では各党の公約でブラック企業対策が盛り込まれたし、9月からは厚生労働省がブラック企業相談窓口を設け、早速数多くの相談が寄せられている。この流れを受けて労働問題専門家の間でも、ブラック企業にまつわる議論が熱く行われている。

これまで労働者にとって、会社とは「入ってみないと分からない」ものであった。しかしブラック企業の存在が注目されるようになって以降、情報網の発達とも相まって、一部の会社における劣悪な労働環境が世間にも広く知られるところとなっている。結果的に、ミスマッチによる離職や、不本意な思いを持ちながら就労せざるを得ない不幸な労働者を未然に防いだことになるわけで、その点においては喜ばしいことと言えるだろう。

一方で、問題も確実に存在している。

「ブラック企業=ひどい労働環境」という現象面のみがクローズアップされ、現在の労働現場において起こっていることの背景や要因の分析が浅いため、単に「ブラックと認識されている有名企業を批判する」ことに終始しており(よく名前が挙がる企業として、「ユニクロ」「ワタミ」「楽天」などがある)、対症療法的である。表層的な批判が広がりすぎるのは、大多数の人にとって得にならない。単に過敏な労働者を増やし、ブラックと目される企業は生き長らえるだけで、全体として問題解決につながらないからだ。

ブラック企業問題はもはや「対岸の火事」ではない。あなたがアルバイトやインターンシップで関わっている会社も、あなたの家族や親戚が勤めている会社も、もしかしたらブラック企業かもしれない。実際そうでなかったとしても、知らぬうちに根拠のない噂の的になっているかもしれないのだ。

<ブラック企業の定義は、論者の価値観によって千差万別だ>

まずは改めて、ブラック企業の定義から説明していきたい。明文化された共通基準はあいにく存在しないのだが、ブラック企業とは一般的に、

「明らかに違法、もしくは限りなく違法に近い労働条件(時間、賃金…)」

を、

「パワーハラスメントや暴力的強制力、精神的プレッシャーをもって従業員に強いる」

会社である、と認識されている。

もう少し具体的に言うならば、「ノルマが厳しく、残業が常態化しており、それでいて薄給な、労基法違反の会社」というところだろうか。

ちなみに、多くのブラック企業を目の当たりにしてきた私個人としては、

「経営者が社員に報いる気がなく、確信犯的に違法行為をおこなう会社」

こそ、業界・規模など関係なく全部ブラック企業だ、と宣言し、大企業のブラックな実態をマスコミに告発している。しかし以前、告発記事で大手商社を採り上げたときのネット上での評判はあまり芳しくないものであった。

「年収1千万もらえる大企業なら、ブラックじゃねーだろ」

「この新田とかいうヤツ、まったくブラック企業のこと分かってねぇ」…

すなわち、一般的に認識されている「ブラック企業」の評価基準はあくまで「従業員目線」であり、「働く側にとって都合が良いか、悪いか」で語られているのである。

また、この問題を論じている専門家の間でも個々で微妙に定義が異なっているため、「労基法違反は問答無用で悪だ!」「いや、そんなことを言ったら日本のほぼすべての会社がブラックになってしまう」「ブラックな環境でも、社員が鍛えられるならいいではないか」…など、論点がかみ合わない展開となり、「なんだかよく分からない…」と印象になってしまっている感が否めない。本連載においてはその「立ち位置の違い」も踏まえた形で、多面的な視点をお伝えしたいと考えている。

<同じ会社でも、視点の違いで評価は分かれる>

 「議論がかみ合わない」現象の分かりやすい例として、既に名前が挙がったアパレル販売業の「ユニクロ」を例にみてみよう。同社ではハードワークが常態化しているため批判されやすいが、果たしてこの会社は本当にブラックといえるだろうか?

「現場配属の正社員」から見たら、ブラックかもしれない。分厚いマニュアルに即した言動、行動が求められ、残業も多い。一方で店舗毎の人件費制限があるため、残業の上限時間が決められている。したがって、上限時間を超える残業は自動的にサービス残業となってしまう。それでいて、日々やるべきことは怒涛のように押し寄せる。給料を実労働時間で割って計算したら、最低賃金以下なんて月もあるだろう。

「現場配属の店舗スタッフから抜擢されて、本社勤務になった正社員」から見ても、ブラックかもしれない。早く帰るように奨励されはするものの、終わり切らない仕事。朝は7時から始業のためゆっくりもできず、仕事以外に不得意な英語の勉強もしなければならない。創造的な企画業務に携われると思いきや、会議のための会議が続き、なにかミスをすると責任を問われる、明日は我が身な環境…

では、「アルバイト」はどうだろう。目的意識次第では、けっこういい会社かもしれない。

仕事は忙しいが、キッチリ残業代もつくし、研修やマニュアルも整っているので、社会性を身につけるにはピッタリの環境といえるだろう。残業しても終わり切らない仕事は正社員がこなしてくれるから心配いらない。

「成長意欲の高い、都心部繁盛店の店長」にとっても、いい会社と言えるかもしれない。

確かにやるべきことは怒涛のように押し寄せるが、同店の売上規模から考えると「年商1億円の中小企業を経営している」のと同じ感覚だ。そう思えばなんでも勉強になる。繁盛店なら予算に余裕もできるので、アルバイトを効率的に使い、社員の負担を減らしてバランス良い組織をつくっていくこともできよう。

「取引業者」にとっては、白黒半々といったところか。大量発注の恩恵を受ける一方で、厳しいコスト管理と品質基準に苦労することになる。ただ、「顧客からの要求に応える」という点ではあらゆる企業の宿命ではあるが。

「経営者」や「株主」にとっては、ユニクロはもう理想的な企業といえる。

従業員や業者にとってブラックに見える「ワンマン」とか「厳しさ」は、経営側の立場から見れば立派な「リーダーシップ」「労務管理」「品質管理」「コスト管理」だ。これらを徹底することで高い売上高と利益率を確保している企業。ぜひ見習いたいとしている経営者は多いし、株主にしてみても安心できる投資先であろう。

この例からもお分かりのとおり、「誰から見るか?」という視点次第で、同じひとつの企業であっても、その評価は真逆になり得る。価値観を共有しない者との対話は、ずっと平行線のままとなってしまうのだ。

コラムニスト紹介

新田 龍(NITTA, Ryo) @nittaryo
株式会社ヴィベアータ、代表取締役
ブラック企業アナリスト
Blog ドラゴンの抽斗 ブラック企業アナリスト新田龍が語る「はたらく」「しごと」「よのなか」

その他のt-newsに掲載している新田龍さんの記事を見るにはコチラ

コラムニスト紹介

「ブラック企業のダメ社員」から身を立て、現在はコンサルティング会社経営。平社員、リーダー、マネジャー、事業部長、役員、経営者と組織のすべての階層を経験し、これまで2万人以上の面接・面談経験を持つ。

「ブラック企業の専門家」として、TVやメディアでのコメンテーター、講演、執筆を展開。また大学、高校、行政、企業を対象としたキャリア教育や就活支援、研修など、「人」と「仕事」にまつわる領域で活動中。

コラムニストの紹介を更に詳しく見る 

主な著書

ブラック企業を見抜く30のポイント(電子書籍)
「人生を無駄にしない会社の選び方」
「たった1分で『信頼できる人』になる!自己紹介の鉄則」

著者のその他の著書を更に詳しく見る

著者:新田龍

「ブラック企業のダメ社員」から身を立て、現在はコンサルティング会社経営。平社員、リーダー、マネジャー、事業部長、役員、経営者と組織のすべての階層を経験し、これまで2万人以上の面接・面談経験を持つ。

「ブラック企業の専門家」として、TVやメディアでのコメンテーター、講演、執筆を展開。また大学、高校、行政、企業を対象としたキャリア教育や就活支援、研修など、「人」と「仕事」にまつわる領域で活動中。

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