- 2025/12/12
あなたにとっての “最高の報酬” は?-時給以上の価値をみつける教育バイト体験談vol.4-
「教育バイトで得られるものとは?」――アルバイトを選ぶ際、報酬の額はもちろん重要です。しかし、家庭教師や塾講師といった教育バイトを経験した学生たちの多くは、金銭的な対価を超えた、かけがえのない“最高の報酬”を受け取っています。
本記事は、t-news編集部が教育バイトで活躍する先輩たちにインタビューし、その体験談から「これから教育バイトを始める人にとってのヒント」を探るシリーズ第4弾。
今回インタビューしたのは、東京科学大学大学院 環境・社会理工学院 修士1年のKさん。教育バイトは、学部1年から約4年半にわたり「学習メンター」として中高生のサポートを続け、「家庭教師」の経験もあります。 生徒の学習支援に留まらない、俯瞰した視点をもつKさんが見つけた “最高の報酬” とは一体何だったのでしょうか?
- 教育バイトを探している人
・学習メンターという職種をまだ知らない人 - ・教育バイトの職種ごとの違いを知りたい人
- ・経験者のリアルな声を知りたい人 など
- 現在教育バイト中の人
- ・ほかの先生の実践例を知りたい人
- ・報酬以外に教育バイトの意義がまだ見えていない人 など
部活動のマネージャーと教育バイトの両立
建築学を専攻する傍ら、ボート部のマネージャーとして活動。大学院に進学し、建築を通して得られた視座を生かして、グローバルな企業・業界でのキャリアを志しています。
Kさん:「高校まではオーケストラに所属しており、比較的『体育会系』な環境にいました。大学進学後も、学問以外で『大人数で一つの目標に向かう経験』が欲しいと考えていました。マネージャーとしての業務は、毎週末、練習場に泊まり込みで入り、ビデオ撮影や、選手約30人分の食事の献立づくりと調理を担当していました。チームを支えるために俯瞰的に見る視点がここで養われたと感じています」

Kさん
週末の活動がメインの部活動と両立するため、アルバイトは平日勤務がメインの「学習メンター」を学部1年生からスタート。部活が多忙な時期は休止することもありましたが、現在も学習メンターを続けています。このほか、学部3年生のころには「家庭教師」として小学5年生の指導も経験。ご自身の母校に通う小学5年生に、内部進学を見据えた指導を行っていました。
生徒にとって自習室は「サードプレイス」。学習メンターの役割とは
複数の職種を経験する中、現在も続けている「学習メンター」についてお聞きしました。学習メンターは、中学や高校内に開設された自習室に常駐し、生徒からの質問に答えたり、声掛けをしたりすることで自習のサポートをするのが主な業務です。Kさんは中高一貫校を担当し、数名の学習メンターとともに生徒の質問に答えていきます。
Kさんは、メンターの本質を「教えるだけではない」ところに見出しています。
チームで創る「安心できる空間」
家庭教師は明確な目標に向かってひとりで対応する一方、学習メンターは、チーム連携で対応することが特徴です。
Kさん: 「生徒にとって自習室は『サードプレイス(第三の居場所)』のような場所だと思います。利用者からは『今日はこんなことがあった』『大会が近くて部活が大変』といった学校生活全般に関する話題を受けることも多く、単なる勉強に関する質問を受けるだけではありません。そのため、メンターがひとりでその生徒に応対すると、生徒に共有できる話の幅が狭くなってしまいます。生徒にとって、ロールモデルになる人が複数いたほうが安心だと思うので、勉強以外の悩みや質問には、ほかのメンターにも入ってもらうなどメンター同士で連携し合い、安心して話しやすい雰囲気を作り上げます」
学習メンターとは、単に勉強を教える指導者ではなく、生徒の「サードプレイス」として、チームで多角的にサポートする存在であることが明らかになりました。
まるでコンサルタント 生徒だけでなく学校全体を俯瞰して見る
複数の学校での勤務経験を持つKさんは、生徒個人が抱える悩みだけではなく、学校全体にも意識を向けます。その役割は、まさにコンサルタントのようです。
Kさん:「勤務校では、授業で行う小テストの採点もすれば、学校の施錠もすることもあり、『何でも屋』みたいな側面もあります。関わる人が多く、結果として生徒のことだけではなく、学校全体を俯瞰して見ることができます」
代行勤務(担当校以外での勤務)でほかの学校に出向くこともあるというKさん。複数の学校現場に行くことで「学校ごとの色」が見えてくるといいます。
Kさん:「メンターという学校外の立場だからこそ、内部の先生方には気づきにくい、その学校特有の課題や生徒の傾向などが見えてきます。
生徒がつまずいている課題は、複数のレイヤーが重なり合って起きています。それは学校の制度に起因することも。だからこそ私は、課題の根幹がどこにあるのかを自分の主観だけではなく、他の学校の生徒を見たうえで、論理的かつ客観的な視点で分析して、学校や社員さんに共有しています。メンターにはそうした俯瞰して見る視点も大事だと思います」
こうした学校全体にも意識を向けることに対して「難しくもあるがやりがいもある」と話します。もちろん、学習メンターだけでは解決が難しいため、トモノカイの社員との連携が不可欠です。
Kさん:「生徒たちは本当にみんないい子たちです。素直で、一生懸命で、楽しく生きているのが伝わり、日本の将来は安心できるなと感じるほどです(笑)。点数を上げることや良い進路に進むことに目を奪われがちですが、学校生活を存分に楽しみ、しがらみなく自分に向き合う経験こそが価値で、それができた人は強いと思います。目の前の目標にばかり気を取られず、みんなが自己実現できるといいなと願っています」
放課後の学校で働く新しい教育バイト「学習メンター」
求人例
生徒: 中学生・高校生
時給:1,530円+交通費全額支給
曜日: 週1回~
業務内容: 自習の運営・自習サポートなど
「傾聴」と「情報開示」 2つの教育バイトでの姿勢の使い分け
学習メンターと家庭教師、2つの教育バイトについて、生徒や保護者と向き合う際の心構えを明確に使い分けていました。
「傾聴が9割」で自己理解を促すメンター
Kさん:「メンターでは、その子がなにを思っているのか、なにを課題に感じているのか、『良き相談相手』になって引き出すことを心掛けています。会話は「生徒 9:自分 1」くらいの割合でほとんど『聞く』ことに徹するように意識しています」
そうした傾聴していくことで、生徒は「満足した表情に変わる」と続けます。
Kさん:「生徒は自分の考えていることを、親や友だちに言えず、我慢している場合もあるのかもしれません。第三者であるメンターが聞くことは、大きな意味があるのではないかと思っています。自分の声に耳を傾ける機会となり、自己理解を深める上で非常に大きな意味があると思っています」
詳細な内部情報を開示する家庭教師
一方で、家庭教師では詳細な情報を開示することを心掛けていたといいます。そこには、担当生徒がご自身の出身校であり内部進学を目指す小学生だったことや、親御さんの存在が理由になっています。
Kさん:「家庭教師の場合は、目標が明確に決まっているので、自分が持つ『ありったけの情報』を伝えることを意識しています。それは本人とは限らず、特に親御さんに対しても重要です。担当していた生徒は、私の出身校の小学生で内部進学を目指していました。そうすると、親御さんも情報に飢えています。親御さん自身で情報収集しようとしてもたどり着けない、内部にいたからこそ分かる情報を『リアルな温度感』で、こちらからオープンにして伝えていきました」
塾ではなく、わざわざ家庭教師を求める理由には「情報がほしい」というニーズもあると分析します。具体的にどんなことを伝えていたのでしょうか。
Kさん:「内申点の評価基準や、レポートの書き方、進学に関する具体的な数字、気をつけるべき先生や部活など、『そこにいたからこそ言える』情報を惜しみなく提供しました」
『東大家庭教師友の会』の家庭教師募集では、「中学受験を経験した人」「〇〇中学・高校出身者」といった細かい要件が設定されていることがあります。そうした背景には、同じ境遇の先生に指導をお願いしたいというニーズがあるようです。
Kさん:「勉強を教えるだけではなくて、勉強以外のあらゆる『情報』を伝えることが大切だと思います。それは、表には出回らない情報が多いからです。塾もママ友も、都合のいい情報しかシェアしてくれないといいます。でもその学校のリアルな情報こそ知りたいですし、ご家庭にとって、内部事情を知っている『家庭教師』を頼る意義にはそうしたこともあるのだと思います」
小中校時代の経験を活かす家庭教師
求人例
生徒: 小学6年生・男子
時給:2,600円+交通費
曜日: 週1回 60〜90分(16:00〜)
指導内容: 中学受験対策
求人情報は毎日更新中!
誰かの人生を後押しした原体験:「第三者の視点」の意義
メンター、家庭教師、どちらも「第三者の視点」に価値を見出すKさん。その背景には、ご自身の頑張りが誰かの人生を後押ししたという原体験がありました。
Kさん: 「中高生時代、新聞社で学生記者として活動していました。そのときの同じチームにいた子からもらった言葉が心に残っています。
学生記者を卒業し、私が記者活動で興味を持った『建築』へと進路に進む姿を見て、進路に悩んでいたその子から、‟好きなことに突き進むKさんがかっこいいと思った。好きなことを好きって言っていいんだと思えたから、自分もやりたい道に進むことができました”と言われたんです。
それまでは『自分のことは自分で決める』とひとりで突き進んできましたが、彼女からの言葉がきっかけで、自分自身が夢中になって取り組む姿が、誰かを後押しすることになるんだと気づかされました。
私が好きなことに一生懸命取り組んでいたら、その姿を見て、だれかが頑張れるかもしれない。そう考えると、メンターや家庭教師のような第三者の存在は生徒にとって大切だと思いました」

これから教育バイトを始める人へ
これから教育バイトを始める学生へメッセージをいただきました。
Kさん: 「教育バイトを始める方は勉強が得意な方が多いと思いますが、自分が勉強ができたのはたまたま環境が良かっただけかもしれません。生徒たちは、偏差値に関係なく勉強を頑張っています。だからこそ、自分の経験を言語化し、どうやって勉強してきたのかをコツなどをしっかりナレッジとして共有していくことが大切だと思います」
「さらに言えば、教育バイトは、過去の自分を振り返ることにもなります。がむしゃらに勉強していたころは、自分自身が見えていないものです。その頃のことを言語化し、誰かに伝えることが、当時の自分の心の声に耳を傾けることになります。
たとえ受験がうまくいってもいかなくても、それは自分を受け入れることにつながると思います。誰かに向き合って『教える』という行為は、結果的に自分自身に向き合うことにつながると思います。そしてそのプロセス自体が救いになるはずです」
生徒の「目つきが変わる瞬間」が”最高の報酬”
Kさんにとって教育バイトの“最高の報酬”とは何だったのでしょうか。
Kさん: 「生徒の『目つきが変わる瞬間』を見たときです。私と話す前と後で、目の色が変わるんです。勉強への意欲でも、部活への気持ちでも『よし、やろう』という前向きな気持ちになって、目つきの色が本当に変わります。
先日の勤務では、初めて話した生徒の進路相談に2時間じっくりと、一緒に大学の募集要項を読んで情報収集していました。初めは「何を調べていいか分からない」状態だったのが、大学情報の見方を教え、一緒に探していくにつれ、『めっちゃ面白そう!この大学入りたい』と熱意を持てるようになったんです。」
生徒個人のみならず、学校全体、さらにはその背景にある仕組みまで「俯瞰して見る」。
Kさん独自の「視座の高さ」こそが、時給という対価を超えた「生徒の『目が変わる瞬間』」という“最高の報酬”に繋がっていました。日々の業務に「自分なりの意味」を見出すヒントが、この記事にあふれています。これから教育バイトを始める方、そして日々の指導に悩むすべての方にとって、新しい一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
(聞き手・文:t-news編集部)
※掲載内容は取材時(2025年11月時点)のものです









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