- 2025/12/12
あなたにとっての “最高の報酬” は?-時給以上の価値をみつける教育バイト体験談vol.5-
「教育バイトで得られるものとは?」――アルバイトを選ぶ際、報酬の額はもちろん重要です。しかし、家庭教師や塾講師といった教育バイトを経験した学生たちの多くは、金銭的な対価を超えた、かけがえのない“最高の報酬”を受け取っています。
本記事は、t-news編集部が教育バイトで活躍する先輩たちにインタビューし、その体験談から「これから教育バイトを始める人にとってのヒント」を探るシリーズ第5弾。
今回インタビューしたのは、千葉大学 園芸学部4年 鈴木凜香(すずき りんか)さんです。大学3年生から学習メンターとして、放課後の学校で、主に中学生の自習をサポートしています。高校時代、先生に質問できない生徒だったという自身の経験から「質問しやすい環境づくり」を心がける鈴木さんにお話を伺いました。
- 教育バイトを探している人
・学習メンターについて知りたい人 - ・これまでの経験を活かして働きたい人
- ・人をサポートすることに関心がある人 など
- 現在教育バイト中の人
- ・生徒との距離感を模索している人
- ・チームで連携する環境に関心がある人 など
「質問しづらい」過去の経験が、教育バイトを始める原点に
大学では屋外空間の自然と人工物の調和を目指す「ランドスケープデザイン」を学んでいる鈴木さん。ランドスケープを学んでいることがきっかけで「街に出て散歩することがより楽しくなりました」といいます。街によって、緑の剪定や、植えられている樹種、屋外に置いてあるベンチの質感など、 細かな要素の違いに気づくようになったといいます。 この「環境を構成する要素を細かく観察する」という鈴木さんの視点は、教育バイトにおいて、生徒が質問しやすい「心理的な環境」をつくるという心がけにも関連します。

鈴木凜香さん
鈴木さんのアルバイト変遷は、雑貨店での販売アルバイトや家庭教師を経て、現在は都内の中学校で「学習メンター」として勤務。週に1回2時間程度、自習室に滞在し、生徒の質問対応を担当しています。教育バイトを選んだ背景には、自身の高校時代の苦い経験から生まれた強い思いがありました。
「質問」するには勇気が必要だった
中学時代までは勉強に苦手意識はなかったものの、高校に上がり「分からないこと」をそのままにしてしまった結果、それをさらに応用した学習に付いていけなくなってしまい、悪循環に陥ったという苦い経験を語ります。
鈴木さん:「真面目に授業を受けていたので、質問することで『なんでこんな質問が出てくるんだ』って思われたら嫌だなという思いがありました。授業が進む中、自分がここで質問しても良いものかと感じると、よりいっそう質問しづらくなってしまいました。先生方も、やっぱり勉強ができる子に教えるのは楽しいんだろうなっていうのが見てて分かるので、質問はすごく勇気がいることでした」
この質問への苦手意識を克服できたのは、通っていた予備校での経験のおかげだと続けます。
鈴木さん:「予備校に通っていたころ、あるとき思い切って先生に質問しました。その際に『どこでつまずいているか』『今後の学習の進め方はどうしたらいいか』まで丁寧に教えてくれました。ただ質問したことに答えてくれるだけなく、深く掘り下げて根源を探ってもらえたのです。質問を通じて自分がそもそも基礎を理解していなかったのか、それとも別の点につまずいていたのか、自分の位置(学習レベル)が分かるようになりました」
この体験を通じて、質問することで自分の学習状況が明確になり、学習が深まったという成功体験を得たそうです。これがメンターになった動機だと語ってくれました。
鈴木さん:「『質問できる環境』の重要性を痛感しました。だから私も教育バイトを通じて、私ような子たちをサポートできたらいいなと思い、教育バイトを始めました」
メンターとして「斜め上の存在」として接する
学習メンターとして勤務する中、生徒からはどんな質問を受けることが多いのでしょうか。
鈴木さん:「私が理系ということもあって、数学や理科の質問に答えることが多いです。また、質問対応に加えて生徒と雑談をすることもあります。話を聞くと、勉強に対しての不安があることが分かり、その不安に寄り添うかたちでお話をしています」
生徒からの相談は勉強に限りません。鈴木さんが就職活動をしていたことを知った生徒からは、将来について聞かれることがあったと話します。
鈴木さん:「 将来は海外で働きたいという生徒から『どういう大学に入ったらいいと思う?』という具体的な相談を受けたことがあります。 また、一般入試ではなく総合型選抜入試を考えている生徒から『部活で科学部とかに入った方がいいが有利かな?』といった、部活動の選択に関する相談を受けることもあります。こうした生徒が迷っていることに対して、明確なアドバイスはできませんが、『私の周りにはこんな子がいたよ』『こういうことも合うかもよ』などと、参考になりそうな選択肢を提示するようにしています」

学習メンターとして勤務する中、先生には質問しづらい生徒に寄り添うため、鈴木さんは指導の際は「お姉さん」のような斜め上の関係で接しています。
鈴木さん:「質問を受けた際は『ここ、難しいよね』と共感の言葉をかけるようにして、質問することへのハードルを下げるようにしています。これは、過去の「こんな質問していいのか」と悩んでいた経験から心がけていることです。また、学校の先生ほどかっちりしすぎず、語尾も緩くするなど、できる限り砕けた雰囲気を作ることで、生徒との適切な距離感を保っています」
生徒にとっては既に、先生や友達、親といった関係性がある中で、少し年上の「お姉さん」のような「斜め上の新しい存在」こそが、生徒が本音で話しやすい学習メンターとしての理想的なポジションのようです。
家庭教師からメンターへ:異なる指導経験での学び
鈴木さんはメンターを始める前に、約1年間、個人契約の家庭教師(小学4年生の指導)を経験しており、その経験が現在にも活かされています。
「掘り下げ方」の難しさを感じた家庭教師
時給が良いという動機で始めた家庭教師でしたが、計算が苦手な小学4年生の指導で「どこまで掘り下げて教えるべきか」という壁に直面しました。
鈴木さん:「担当した子は、足し算や引き算がおぼつかず手を使わないと計算できませんでした。そこから指導が始まったので、どこまで遡って教えるべきか、どうやって教えてあげようかといった『掘り下げ方』が難しかったです。その子は手を使わないと引き算ができなかったので、iPadで絵を書いて視覚的に説明していました。もともと『漢字』が好きだったようなので視覚から入るのはその子にとって効果的だったようです」
そんな勉強が苦手な子に対して、親御さんは「とにかく机に向かわせるだけでもいい」と勉強習慣を身に付けることが重要だと考えていたそうです。幸い、鈴木さんの1年間の指導のおかげて、計算のスピードが向上。最終的には塾に通うことを選択し1年間の家庭教師指導は終了しましたが、鈴木さんに果たした役割は大きく、生徒の次のステップにつながりました。
「チーム連携」でそれぞれの得意分野を活かす学習メンター
「学習メンター」を知ったきっかけはInstagramの広告でした。
シフトの組みやすさや、ほかの大学との交流があることで新しい情報も得られると魅力を感じ、応募しました。1人で指導する家庭教師とは異なり、メンターでは「チーム連携」が大切だといいます。
鈴木さん:「私が担当している学校では、自習室にメンターが5名ほど在籍しています。そこにだいたい50名の利用者が来るので、メンターみんなで多種多様な質問に答えていきます。たとえば、文系の質問が来た場合は『ちょっと呼んでくるね』と別の文系科目が得意なメンターにパスします」
メンターを始めた最初の勤務では、質問をうまく説明できずに生徒を納得させられなかったという鈴木さん。その苦い経験を活かして、専門分野のメンターに質問に答えてもらうようにし、チームで連携してきます。
鈴木さん:「連携するためには、ほかのメンターの方を知っておくことが必要です。メンターのことを学校の生徒に知ってもらうための『自己紹介カード』や『メンター通信』という掲示物があります。一緒に勤務するほかメンターを知ることができ、メンターにとっても貴重な情報源です。互いの得意分野を事前に把握しておけるからです」
スムーズなチーム連携のためには、メンター間の理解も大切であることがわかります。それにより、生徒の質問に確実に応える体制を整えることができるのです
放課後の学校で働く新しい教育バイト「学習メンター」
求人例
生徒: 中学生・高校生
時給:1,530円+交通費全額支給
曜日: 週1回~
業務内容: 自習の運営・自習サポートなど
これから教育バイトを始める人へ
鈴木さんから、これから教育バイトを始める学生に対し、生徒との「距離の取り方」を意識すること、というアドバイスをもらいました。
鈴木さん:「距離を取った接し方をしてしまうと生徒は質問しづらくなってしまいます。逆に、友達のように近づきすぎるのもよくないと思います。既に先生や友達、親御さんといった関係性がある中で、私たちが提供できるのは『お姉さん』のような斜め上の新しい関係だと思います。もしメンターをはじめられるなら、メンターという少し年上の存在であることを意識した接し方を心掛けると良いと思います」
生徒の「分かった!」を見届けられる瞬間が”最高の報酬”
鈴木さんにとって教育バイトの“最高の報酬”とは何だったのでしょうか。
鈴木さん:「生徒が『分かった』『できるようになった』という状況を見届けられることです。教科書や参考書、先生の説明を聞いてもわからなかったものが、私の説明で分かるようになるとすごく嬉しいです。
生徒からの質問に答えたあとに『これ、自分でできそう?』と聞くようにしているのですが、無理と言われても諦めず、生徒に教える表現や、例題を変えて、説明のレベル感を段階的に下げます。そうしている中でようやく『これだったらできそう!』と生徒に言ってもらえた瞬間に、大きなやりがいを感じます」
先生や親とは違う「斜め上の存在」として生徒に寄り添い、質問しやすい空気を作る。
自らのつまずきを教訓に、質問をためらう生徒の気持ちに寄り添い、生徒が自信を持って一歩踏み出せる学習環境を築く姿勢が伝わりました。
(聞き手・文:t-news編集部)
※掲載内容は取材時(2025年11月時点)のものです
あなたにとっての"最高の報酬"を!
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